扉の向こう側に誰もいないと分かっていても、長年の癖なのか入るときには「ただいま」と言って扉を開けるようになった。「おかえり、しんいち。今日もお疲れ様」と蕾だった花が今まさに開花したような…そんな柔らかな笑みを見せて、玄関先で両手を広げて出迎えてくれる恋人がいるだけで、その日あった嫌なことも疲れも何もかも振っとんでしまうのだから、恋人の存在とは不思議で、大切で、かけがえのないものだと思う。その幸せを覚えてしまったら、もう2度と手放すことなんて出来ないだろう。
中に入って灯りをつけると、真っ暗だった室内が明るく照らされる。玄関に並べられた沢山の写真たてには、恋人との思い出の日々が飾られている。最初は1枚だけだったのに、今ではこんなに増えた。他にも貝殻やトロフィーといったものも置かれている。海で拾った貝殻には、ほんのりと潮の香りが残っている。トロフィーは快斗の努力の証だ。快斗がFISMで優勝したときにテレビカメラの前で頬にキスした写真はちょっと恥ずかしくて後ろに飾ってたりする。
空と海が見える美しい教会で挙げた結婚式、新婚旅行で行ったシンガポールの夜景、サプライズで行ったイギリスのバッキンガム宮殿、バカンスで行ったハワイのビーチ。交際する前から、彼とは国内に限らず色々な場所に出かけた。お互い忙しくて、なかなか時間は合わなくなってしまったけれど、オフの日は思いっきり2人で遊んで過ごすのだ。仕事先でばったりと会う…なんてこともあるけれど。まだまだ行ったことがない国は沢山ある。この勢いだと、ゆくゆくは2人で世界を一周してしまうかもしれないな、と苦笑してしまった。
壁に飾ってあるカレンダーを見るのも、今では新一の日課となっている。今日は特別な日だ。なぜなら、最愛の恋人が半年間の欧米ツアーを終えて帰ってくる日なのだから。会うのは、実に4ヶ月振りである。何度かショーを観に行ったり、空いた時間に2人で観光したりしているので、半年間全く会えなかったわけではないが、快斗がこの家に帰ってくるのは半年ぶりなのだ。この場所で、彼と一緒に過ごせるのが嬉しくて堪らなかった。
カレンダーには「ダーリンの帰国!」と書かれ、その周りにお花のシールが貼られている。前日までには×印が付けられ、帰国までのカウントダウンが刻まれている。「ダーリン」と書いたのは新一ではない。浮かれまくった可愛いお花のシールも違う。新一が「ダーリン」なんて言ったのは、テロリストとの銃撃戦の真っ只中か香港マフィアとカーチェイスしたときくらいだ。どちらも快斗は巻き込まれただけだ。隣に快斗がいるだけで、どんなに危険な状況でも絶対に乗り越えられる自信がある。
快斗はよくテレビ取材などで新一のことを「ハニー」と呼ぶ。その前に「愛しの」や「マイ」が付くことが多い。この前現場で小さな男の子に「ハニーだっ!」って呼ばれたときはさすがに困惑してしまって、反応に困った。その話をどこからか聞きつけた快斗に「新一は俺のハニーなんですけど!?」と言われたときも然り。まだ小さな子供相手に嫉妬して拗ねているなんて、余裕がねぇなと言ったら、新一のことだけだよ!と涙目で訴えられて抱きつかれた。その後、半日は離してくれなかったっけ。
(…ふふふ…早く会いてぇな……)
快斗との間に時差というものはあるけれど、なるべく毎日電話やメールをしていた。おやすみと送ると、おはようのときもあった。快斗の体温を感じることができるのは本当に久しぶりで、早く会いたくて高まる気持ちを隠せていなかったのかもしれない。午前中に警視庁の廊下で佐藤刑事に会ったときに「楽しみで仕方ないって顔してるわよ」と言われてしまうくらいに、自分の顔は浮かれていたのかもしれない。怖くて鏡は見れなかった。
佐藤刑事たちと警視庁のすぐ近くにあるイタリアンレストランで昼食をとった後、新一は近くのスーパーマーケットへ足を運んだ。朝、出かけるときにメモしておいたティッシュやトイレットペーパーなどの生活用品を購入して、生鮮売り場で野菜や果物、ちょっと高めのお肉を購入した。購入した量は多めだが、男2人だから案外すぐ無くなってしまう。快斗が使っているお気に入りのエコバックに買ったものを詰めて、寄り道せずに真っ直ぐ自宅へ帰った。
買ってきたものを一通り閉まって、キッチンに立つ。壁にかけられた快斗の黒いエプロンを借りて、シャツの腕を捲って包丁を握る。慣れた手つきで野菜やお肉を切っていく。切り終わった食材は皿に盛ったり、袋に分けてタレで味をつけたりして冷蔵庫の中に入れておく。帰ってきたときに、焼いたり、混ぜたり、レンジでチンすればすぐに食べられるようにしておけば、簡単な夜食にもなる。余った食材を炒めて野菜炒めを作って、少し早めの夕飯にした。
快斗が帰ってくるのは、何事もなければ今日の20時頃の予定だ。食事は飛行機のなかで済ましてくるので、もし食べるとしたら簡単なものだ。今までのことを考えるとおそらくベッドに気絶するように倒れて翌日の昼頃まで起きないだろう。新一もオフの日は1日中寝てたりするので、オフ初日は2人ともベットからほとんど下りないことが多いのだ。
快斗はきちんとスケジュールを組んで、寺井さんに監視されながら睡眠を取っているが、自宅に勝るものはないと言っていた。組織の影に怯えることはなくなったが、快斗を狙うファンやパパラッチ、そしてマジシャンとして成功した快斗を妬む者が少なからずいるため、常に快斗は周囲を警戒し、気を張っているのだ。新一の隣に座りながら、ここが世界で一番安心する場所なんだと言って笑っていた。
(俺もだよ…かいと……)
食器を片付けて、キッチンの電源を切る。前日までに家の隅々まで綺麗にし、掃除は完璧に済ませてある。無くなりかけていたトイレットペーパーやティッシュのストックも買っておいたし、冷蔵庫の中は快斗の好きなもので溢れさせた。これで明日は何もしなくて大丈夫だ。新一のお世話大好きな快斗が新一より早く起きてベットから出ていかないために…とは言えない。ソファーに座って珈琲を飲んでいると、だんだん眠くなってきて、瞼が重くなっていく。寝ちゃ駄目だと思っていたのに、ぷつりと糸が切れるように眠りの中に落ちていった。
***
快斗と付き合い始めたのは、今から6年前の冬─大学2年生のクリスマスの日だ。その日は雪が降っていて、街はイルミネーションの灯りに包まれてキラキラと輝いていた。本当は服部と白馬の4人で出かける予定だったのに、服部は和葉ちゃんが急遽東都にやってきてクリスマスデートをすることになり、白馬は母親がフランスから帰ってきて家族で過ごすことになった。
4人でわちゃわちゃ騒ごうと思っていたのに、急に2人きりになったので新一も快斗もなんだかそわそわしていた。街に出たのは良いものの、外はカップルや家族で溢れていて、どこにいっても落ち着かなくて。「家に来る?」と誘われてこくりと頷いた。快斗は無言で新一の手をとって先に進んでいく。その背中がなんだか焦っているような…落ち着かないような…何かに迷っているような…色んな感情が複雑に絡み合っていて上手く読みとれなかった。ポーカーフェイスやいつもの調子はどこに置いてきたのやら。バイクに乗っている間も、自宅に着いて快斗のベッドに腰を下ろしたときも、しばらくの間、快斗は何も話さなかった。ちらっと見ると、外を見てた快斗の耳が真っ赤になっていることに気が付いた。初めて大学で出会った時よりも少しだけ伸びた背と鍛えられた身体、しゅっとした横顔に、胸がドキドキして心臓が煩かった。
入学式当日、新入生代表として壇上に立った快斗の姿を見たとき、新一はすぐに確信した。彼があの「怪盗キッド」の正体であると。入学前から「黒羽快斗」の名前は新入生や在校生の間で話題で、新一の耳にも何度も入ってきた。日本最難関といわれる東都大の入学試験を始まって以来初の満点合格を達成し、世間に鮮烈な印象を与えた。それだけでなく、容姿もずば抜けて整っていてモデルのようなイケメンだと噂で聞いていた。高校3年生の冬頃から、マジックの大会にも何度か出場し、その業界では既に名は知られていたようで、門の前にはファンやテレビカメラの姿も見られた。
『柔らかな春の日差しを感じる今日この頃、僕らは──』
壇上に立って挨拶をする快斗の姿を見た瞬間、新一は笑ってしまった。だって、あの怪盗キッドが新入生代表として真剣な顔で挨拶をしているから。それが面白くて、おかしくて、我慢できなくて、気がつけば笑っていた。近くの席の人には、式の最中「なんだ、こいつ?」と不審に思われていたかもしれない。深呼吸をして、なんとか抑えた頃には奴の挨拶は終わっていた。
今年の法学部の新入生は456名。この中から新一を見つけるのは彼のことなら朝飯前だろう。短い挨拶だったが、新一の位置を捉えているに違いない。わざわざ敵である新一に関わるメリットなど彼には何もない。奴が徹底すれば卒業まで会わない可能性だってある。構内で擦れ違うことはあっても、仲良くなることはないだろうと思っていた…のだけれど。
(これは…いったいどういうことだ?)
終わった瞬間、奴の方から近づいてきて、「名探偵が好き。まずは友達から始めよう。そんで、いずれ恋人になろう。俺頑張るから」と手を握られて早口言葉で告白された。新一も周囲(※服部と白馬)もドン引きの重すぎる愛の告白だった。初めて直接触れた彼の手は汗でびっしょりと濡れていて、言葉は震えていて、顔は真っ赤だった。いや…本当に…キッドの正体への第一印象は「やべぇー奴」だった。宣言通り、その日から快斗は新一の隣に常にいるようになった。快斗はとても積極的で、毎日のように新一に"好き好きアピール"してきた。
『しんいち、今日も好き!大好き!』
『おぉう……ありがとな……?』
東都大始まって以来の満点合格を達成したIQ400の天才が、顔を合わせる度に同性の新一に愛を囁く。快斗は人気者だから好意を寄せる女の子も多いというのに。最初の頃は女子から敵対視されることや嫌がらせのようなものを受けることが多かったけれど、入学して半年が経つ頃にはその子たちまでもが快斗の恋を応援しているというなんともアウェーな状況下に置かれた。大学で出来た友人も教授も助手さんも快斗の恋を見守っていた。残された味方は服部か白馬くらいだ。断崖絶壁まで追い込まれて、振り向いたらもう逃げ道はないという状況に立たされた2時間サスペンスの犯人のような気持ちだ。新一が特に快斗に恋愛的な興味を示さないので、新一の方には稀に女の子からのお誘いがあるけれど、忙しさを理由に断っていた。
『しんいち!明日デートしよう!』
『……いや…別に出かけるのは構わねぇが、男2人でデートって言い方は……』
『一緒にデートしてくれるなら、俺がひと晩悩みに悩んだ暗号をプレゼントします』
『っぐ……狡いな、てめぇ……』
『狡くなくっちゃ…どうする?今まで史上最高にドキドキする暗号だぜ…こいつは…』
『……かいととデートいく(※棒読み)』
『っしゃぁ!』
黒羽快斗という人間は、新一が好む謎の塊のような奴で、一緒にいても飽きないし、料理も美味しくて、何でもできる完璧な男だった。たまに強引なところもあるけれど、大学が終わった後や休日に2人でよく出かけた。本屋さんに行ったり映画を観に行ったり、遊園地に行ったり、新一が気分転換に水族館に行くといったら泣きながら俺も行くとついてきた。土日はどちらかの家に泊まって過ごすことも増えてきた。いや、これ、もう交際しているのでは?と思った瞬間、いつものように隣にいた快斗が「好き」と言った。その言葉に、新一は無意識に「俺も」と答えていた。
気がついた瞬間、新一は真っ赤になって慌てて快斗から離れた。この距離ならいくらなんでも聞き逃さないだろう。告白するなら、ちゃんと日時を決めてムードを作ってから、と思っていたのになんという失態だ。いっそのこと聞き逃してくれたらどんなに良かったことか。いくら経っても向こうが何も言ってこないので、おそるおそる快斗を見ると、石のように固まって身動きが取れなくなっていた。そのときの快斗の顔ときたら、間抜けだった。ぽかん…として目をぱちぱちさせて、おろおろと慌てて終いには泣き出した。ぎょっとして慌てて抱き締めてぐしゃぐしゃと頭を撫でれば、「しんいぢ~~~、俺も~俺も~すぎぃ~~……」と鼻声でしがみついてきた。涙と鼻水でぐっちゃぐっちゃで酷い顔だった。
(あの頃の快斗…仔犬みたいで可愛かった)
今ももちろん可愛いけど。可愛いとかっこいいの塊だ。いつの間にか快斗の身長は新一を越え、今では頭ひとつ分高くなった。現役マジシャンの快斗は鍛えているから、筋肉だってもう凄いのだ。腹筋も割れていて、雑誌の表紙を飾ったときには惜しみ無くその身体を披露して話題となった。その雑誌が発売された数日後、たまたま街で出会った園子に『新一くんしか知らなかった旦那様の身体、全世界に公開されちゃったわよ』と言われたときにはもう何を言ったか覚えていないくらいパニックになった。『いやいや、全部は見せてないよ』と何故か突然後ろに現れた快斗に耳元で囁かれて腰を抜かしそうになったのも懐かしい。結局あのときは園子がスマホで新一の様子を快斗に送っていたらしいのだが、仕事を抜け出してくる快斗も快斗である。しばらくの間、2人とは口を聞かなかった。
「イイ男すぎてむかつく」という言葉が、今の新一に出来る唯一の抵抗…だったりする。
***
ふわり、と身体が宙に浮いた感じがして、意識が浮上していく。暖かくて、気持ち良くて、落ち着く。あれ、と思って目を開けるが、ぼんやりとしていてよく見えなかった。瞼を擦ると、こぉらと頭上から甘い声が聞こえて手を握られた。指を絡めてきゅっと握られる。恋人繋ぎだ、と思って顔を上げると、そこには幸せそうな顔で自分を見つめる恋人の姿があった。夢かな、と何度も瞬きを繰り返すと笑い声が聞こえた。
「ぅ、ん……?」
「ふははっ…可愛い…まだ寝ぼけてる」
「……かぁい…と…?」
「うん、なぁに、しんいち」
かいとだ…と首に腕を回してぎゅっと抱きつく。ふわっと広がるのは、僅かに残った香水と汗の匂い、そして快斗自身の香り。心地よくて、すんっと首筋に鼻を寄せると、快斗は困ったように笑った。ちらっと時計を見ると、20時を過ぎていた。やっぱりあの後眠ってしまっていたようだ。
「……玄関でお出迎えしたかったな」
おかえりっていつも快斗がしてくれるみたいに両手を広げてやりたかったと言えば、これから毎日できるよと言われた。
半年間のツアーを終えて、次のツアーまではしばらく日本にいる。日本でショーをしたり、宣伝のための撮影やCMを取ったり、それ以外にもテレビ出演や取材、雑誌撮影、ブランドとのコラボなど予定はぎゅうぎゅう詰めだ。ふわぁっと欠伸をすると、快斗は心配そうにこちらを見た。
「昨日も徹夜だったの?」
「いや…1時間は寝た…」
「もっと寝て」
話している間に寝室に運ばれ、ベッドにゆっくりと下ろされて布団をかけられた。やめろ、寝ちまう。よしよしと頭を撫でられたらひとたまりもない。暖かな手が気持ちよくて、うとうとしてしまう。いいこ、と微笑んだ快斗が立ち上がり、寝室から去ろうとするのでその背を鋭く睨みつけた。今にも寝落ちしそうな顔をしていてどこへ行くのだと目で訴えれば、快斗は苦笑しながらジャケットを脱いでハンガーにかけた。
「今すぐ新一の隣にダイブしたいけど、俺まだシャワー浴びてねぇんだ」
確かに快斗はTシャツにジーンズというラフな格好をしていた。移動時によく好むスタイルだ。よくある一般的な格好だけど、快斗が着るとさらに様になる。空港から真っ直ぐ帰ってきたのだろう。汗を掻いてるのは、早く新一に会いたくて急いできたから…なのかもしれない。ソファで寝ている新一を見つけて、風邪を引かないようにベッドに運ぶことを優先した。快斗の手を掴んで、ぐいーっと引っ張った。
「気にならねぇ」
「俺が気にするの。すぐ出てくるから許して…ね?」
「やだ」
「もぉー…」
夕食の時にちょっと飲んだ酒が聞いてるのか、頭がぽやぽやしていた。我ながら変な酔い方をしている自覚があった。まるで駄々をこねた幼子みたいな。外でお酒は禁止、誰かと飲むのも絶対に駄目(※ただし何人かは除外)と言われているが、部屋でのひとり飲みは止められていない。むぎゅーっと腕にしがみつくが、するりと腕が離れていった。新一が必死に掴んでいたものは腕ではなく、快斗の枕だった。
「……」
「…ごめんって……。ねぇ、新一」
「?」
「どうかこの怪盗めが…暫し貴方の傍を離れることを…お許し頂けますか…愛しの名探偵……?」
新一の手をとり、その手の甲にちゅっと優しく口付ける。新一がキッドに弱いことを知っての犯行だ。ゆるす、と言えば、快斗はにこっと笑って「早く終わらせるから」と言って寝室から出ていった。
バスルームから微かに聞こえる水の音が心地よくて瞼が重くなる。早くって何分だよ、先に寝ちまうかんなと思いながらも、胸のドキドキで眠れそうにない。快斗と一緒にお風呂に入って、頭から冷水を浴びるべきだったかもしれない。
それから何分も経たぬうちに、背後から抱き締められて顔だけを後ろに向ける。快斗の腕の中でもぞもぞと動いて、快斗の方へと身体を反転させた。学生の頃の快斗は黒のタンクトップに短パンといった格好で寝ていたが、今では上半身裸で寝ることが多い。新一は変わらずきっちりと上までボタンをしめて寝るから正反対だ。
「ただいま」
「ん……おかえり…」
すりすりと甘えてくる快斗が可愛くて、よしよしと頭を撫でる。ふわふわの髪に顔を埋めれば、同じシャンプーの香りがした。くすぐったいと言われて、快斗の逞しい胸板の前に顔を戻される。快斗の頭を抱えて寝るのが好きだけど、今日は大人しく抱かれてやるか、と快斗の胸板に頬を寄せた。
「冷蔵庫に新一が作った料理あってさ…もう幸せすぎて…頑張ってよかった…」
「味の保障は出来ねぇけどな…」
「俺好みの味付けにしてるくせに」
「つまんだな」
むにぃっと快斗の頬をつまむ。おかしいな、つまんでるのにイケメンだ。その手を取られ、また手を繋がれる。快斗は昔から恋人繋ぎが好きだ。指の形や太さ、指輪などの装飾品によって、ときには痛みを感じることもあるというのに、不思議なことに快斗とは全く痛みを感じない。快斗以外は知らないからなんとも言えないけど。まるでぴったりと嵌まるように、2人の手はフィットしている。
「……明日から」
「うん…」
「しばらくオフだからさ…久しぶりに2人でゆっくり過ごそうな…ごろごろしたり出かけ
たり…旅行に行くのも…いいな…新一がいるなら俺はどこでもいい…写真も…またいっぱい撮ろうな……」
「おぅ…」
「おやすみ……しんい、ち…」
「ん…おやすみ、かいと」
これから先、数えきれないほどの夜を快斗と2人で越えていくのだろう。
end.