がちゃんと遠くで音がして、新一は読んでいた文庫本から顔を上げた。
「……やっべ、もうこんな時間か」
寝室の壁時計を見て、日付を超えてから二時間も経っていたことにようやく気がついた。先週購入したお気に入りの小説家の新刊はすでに一度読み終わっていて、犯人も動機もトリックも全て知っているのだから初見ほどは小説の世界にのめり込まないだろうと思っていたのに。
今日はパートナーの快斗が仕事で遅くなることが分かっていたため、出先からの帰宅後、新一はひとりで食事を済ませ、早々にシャワーも浴びて、そのミステリー小説を片手に寝室のベッドに入ったのだった。
ここ最近は事件続きで毎日のように警視庁からの要請を受けていて、正直いつ寝落ちしてもおかしくはなかった。いつでも睡魔に襲われてもいいように部屋の照明をベッド付近だけに灯るよう設定したのだが、結果としてこの時間だ。心躍らせながら新刊を手に取り、ベッドに入った先週と何も変わっていない。
先ほど微かに聞こえたのは、おそらく一階下の玄関扉が閉まった音だろう。遅くなると言っていた快斗がきっと帰宅したのだ。両親の建てた洋館風の自宅は、ここで生まれ育った新一が言うのもなんだが、どこもかしこも小説家の父と気品のある物が好きな元女優の母が気に入りそうな厳かで重厚な造りだ。玄関の扉一つでさえ大げさなほど重たい音がする。
じっと耳をすませてみると、ぱたんぱたんとスリッパの音が聞こえた。リズミカルなそれらは、聞き馴染みのある快斗の足音だ。広い家ではあるけれど、奥の図書室以外は昔からこうした人の動く音や生活音が響くのだ。幼い頃や両親がいる時は有希子が忙しなく部屋を行き来している音や優作が珈琲豆を挽いている音などが聞こえてきていたものだ。
深夜に奏でられる音をぼんやりと追っていると、そのスリッパ音が一定のリズムを刻んで階段を上がってくる。新一は慌てて本に革の栞を挟み、ベッドサイドのナイトテーブルに雑に置いた。そしてソファークッションのように腰に当てていた枕の形を整え直す。急いで身体をシーツの海に身を投げ、最近羽毛布団から衣替えしたばかりのブランケットを肩の上まで引っ張り上げた。枕に顔を半分埋めるようにして寝相を少しだけ崩す。瞼を閉じて数度深い深呼吸で気持ちを落ち着かせてから、徐々に穏やかな呼吸を繰り返すことを意識した。
そう、必殺『寝たふり』だ。
身体を資本にしている職に就く快斗は、体調管理には案外厳しいところがある。事件もない日にこんな時間まで新一が起きていると分かれば、小言のひとつや二つ言われるのは目に見えていた。
(……来たな)
がちゃりと開いた寝室の扉にベッドの中に潜った新一の心臓が少しだけ跳ねた。
「新一、寝てる?」
こちらは目を閉じて寝たふりをしているのだから当然見ることはできないけれど、快斗が確認するように小声で話しかけてくる。寝たふりなんて両親相手にもやった記憶がないから少しだけ楽しくなってきてしまう。ベッドに近づく快斗の気配に案外ドキドキが止まらない。気を抜くと、ふっと笑いが溢れそうだ。寝たふり、寝たふり。息を止めるのではなく、適度な呼吸を意識して胸を上下に動かした。
「こ~ら、新一。やっぱり起きてたな」
「んっ!」
もちろん百戦錬磨の快斗相手にそう簡単に騙せると思っていたわけではなかったが、ほんの少しだけ楽しくなってきた遊びは、何の駆け引きもなくあっさりと試合終了となってしまった。しかも、なぜか新一の小鼻を挟んでくる悪戯付き。こちらは一生懸命寝息を立てていたというのに、それさえも確認しないところが腹立たしい。
「寝てた」
ちょっかいをかけてくる夫の手を払い、伏せていた瞼を持ち上げる。ベッドのそばに立つ快斗にわざとらしく嘘をついてみたけれど、新一を見下ろしている快斗は「分かりやすかったけどな」と随分楽しそうにけらけらと笑った。
その表情におや? と違和感を覚え、新一は首を傾げた。常日頃から笑顔を絶やさない男ではあるけれど、なんだか今日はいつもよりふわふわしているような気がする。
「ただいま」
じっと観察するように見上げている新一を気に留めず、快斗はベッドの縁に腰を下ろして薄い唇にそっと口づけを落とした。
「……酒くせぇ」
合わせた唇から漏れ出るアルコールの匂いに新一は思わず眉根を寄せた。違和感の原因はこれだ。唇からだけではない、部屋に入ってきた瞬間から気づかなかったのがおかしいくらい快斗の全身からアルコールの匂いが立っていた。
「あ、わりい。さすがに匂う? シャワー浴びてくるから先に寝てて」
新一の反応に身を引こうとした快斗に慌てて首を振った。別にアルコールの匂いを纏っていることを咎めるつもりはなかった。それに、この状態でシャワーを浴びるのはどう考えても危ない。
新一は快斗の帰宅が遅くなった理由を知っている。むしろもっと遅くなるだろうと思っていた。文句を言いたかったわけではないのだ。人に悟らせないことを得意とするこの男が、ここまで分かりやすく酔っていることが珍しくてつい口にしてしまっただけだった。
じゃあ、悪いけどシャワーは明日でもいい? と尋ねてくる快斗に頷けば、さんきゅと嬉しそうに新一の頭を撫でてくる。手首から馨る、華やかなフローラルノートに甘い果実が混ざったような快斗の体臭、そこに加わる上品で妖艶なアルコールの匂いが新一の鼻孔をくすぐった。
(くっそ、……)
新一は己の胸の高鳴りに気が付いて心の中で悪態をつく。目の前の夫の匂いにすぐに反応するなんて、自分の思考が恥ずかしくてそっと顔を枕で顔を隠した。
快斗が調子に乗るから一度も口に出したことはないけれど、新一は快斗の体臭とアルコールが混ざった匂いが嫌いではない。正直に言うと、普段の清潔で爽やかな香りと快斗が好んで飲む甘いアルコールの上品な色香とのギャップは、快斗の甘い容姿とその下に隠れる鍛え抜かれた身体との対比を引き立たせているような気がしてたまらない気持ちになるのだ。
こちらの気持ちを知ってか知らでか快斗は新一の頭を優しく撫で、時折髪を梳くように毛先に触れてくる。爪の先まで丁寧に整えられた指先も、額から枕元に流れ落ちた新一の前髪を払ったり、そうと思えば毛先を揃えたりして遊び始める。おそらく酔っているだけで変な意図はないと思うが、快斗のことを意識した身体はそのたわいもない触れ合いにもじわじわと小さな火が燻ぶり始める。
瞼をなぞる手を止めようと再度見上げた快斗の表情は、普段鈍いと言われがちな新一にも分かるほど青紫色のベニトアイトの瞳が優しく溶けていたものだから、思わず目元が染まり、何も言えなくなった。これは相当酔っている。
「新一も打ち上げに来ればよかったのに」
快斗の指先が今度は頬に触れてくる。うっとおしいふりをして左右に軽く顔を振って抵抗してみたけれど、酔っ払いには通用しない。犬や猫ではないのだ、やめろと言えばいいだけなのに、顎を撫で、その下の皮膚の柔い部分を優しく擦り上げる快斗の指が気持ちよくて……ずるい。
「俺はいつも参加してるだろ? 偶には、俺なしでスタッフたちと、……親交を深めるのも、いいじゃねぇか」
なんとか誤魔化しながらそう返答したけれど、変に緊張してしまっていることがバレていなければいいと思う。
新一のパートナー、黒羽快斗はプロのマジシャンである。国内では元々人気があったが、数年前にマジックの国際大会で優勝したことを皮切りに今や世界中で引っ張りだことなり、現在進行形でスター街道を爆走中だ。ミーハーな幼馴染みたちや新一の母親曰く、そのスピードは近年まれに見る速さでいっそ清々しいほどの人気ぶりらしい。新一自身は快斗のプロモーション方法や人気ぶりにはあまり興味はないけれど、先日海外の有名ハイブランドの広告モデルをすることになったと聞いた時は素直に驚いたものだ。
今日(すでに日付的には昨日であるが)は、そんな快斗のジャパン公演の最終日だった。ツアースタッフを引き連れ、世界中を跳び回り、快斗が東都に凱旋したのは数週間前。世界ツアーの盛況っぷりは連日連夜日本でも報道され、当然東都で行われる凱旋帰国公演のチケットも即完売で全ての公演が満員御礼だった。
新一も元々観に行く予定ではあったけれど、ここ最近は事件要請が続いていたせいか直前まで行けるかどうか冷や冷やものだった。しかし、事件が空気を読んだのか、馴染みの刑事たちが気を利かせたのか定かではないけれど、今日に限っては運よく事件要請がなく、無事にパートナーの凱旋公演千秋楽を見守ることができたのだった。
こどもが大喜びするような分かりやすいコメディ要素もあれば、大人も楽しめるユーモアセンス。みんなで大笑いした後に、凛と張りつめた空気を生み出す演出。期待と興奮を抱えてスポットライトをひとり浴びる魔法使いを見守れば、美しく輝く手元で披露される至高のマジック。
久々に見た快斗のショーは、身内の贔屓目なしでもやはりとても面白く感動的で、トリックを見破ってやると意気込んでいたはずなのに、ショーが終わる頃には新一も他の観客と同様すっかりその世界観に魅了されていた。
そしてエンターテイメント界に限らず、何かを組織やチームで達成した際にはよくあることだと思うが、快斗の世界ツアーも例に及ばず、各地での千秋楽ごとに演者やスタッフによるパーティーをするのが恒例となっていた。日本の打ち上げの雰囲気と異なるところは、公演スタッフが世界中から集まる国際色豊かな組織体制のせいか、家族や恋人同伴で行われることが多い点だろうか。
公演終了後、いつものように快斗の楽屋に顔を出した新一も座長のパートナーとして当然誘われたけれど、世界ツアーの幕が無事に下りたのだ、今日は快斗とスタッフたちだけで積る話もあるだろうと参加を断った。顔を出すだけ出して帰ろうとする新一に快斗もスタッフたちもとても残念がっていたが、苦笑しながら再度ありがたい誘いを断り、ひとり先に帰宅したというわけだ。
そんなわけで快斗の帰宅が一人遅くなった理由も酔っている理由も知っているのだけれど、「ねみぃ~」と言ってワイシャツとパンツスーツのままでぼすんと新一の横に寝転がったパートナーを改めてまじまじと見つめてしまう。ここまで酔っている様子は、本当に珍しい。
しわになるぞと言っても、うんと一言返されるだけ。今朝、快斗が羽織って行ったはずのサマージャケットも見当たらない。帰宅早々に一階フロアのどこかに放り投げてしまったのだろうか。
「オメーがここまで酔うなんて珍しいな」
寝転がったまま枕を抱えてこちらを見つめてくる快斗に、思わずぽろりとそんな疑問も出てしまう。
「ん~、セルゲイの失敗談聞きながら、おすすめだっていうお酒飲んだらいつの間にか……」
眠そうに枕に顔を押し付けた快斗に、なるほどと笑いがこぼれた。どうやら原因は、今年の公演から新しくチームに加わったロシア人スタッフらしい。人種を問わず老若男女だれにでもなりきることができる元変装の達人といえども、ロシア人のアルコール分解能力の高さには流石についていけないようだ。ベッドの上で恨めしくスタッフへのリベンジを誓っている快斗の様子から、スタッフとの仲の良さが窺い知れる。
「大丈夫か? 酔っ払いの座長様は何かやらかさなかったか?」
「ん〜、楽しくなってマイクの腕時計掏った話する?」
「……おい、千秋楽の夜に犯罪を犯すんじゃねぇ」
「大丈夫、大丈夫。手首から外しただけですぐにアイツのポケットに戻したから」
俺の腕もまだまだ落ちてないね! と上機嫌でウィンクを決めてくる快斗はまるでこどものような無邪気さだ。先ほどまでは酔った快斗に少しばかりドギマギしてしまったけれど、スタッフの話や無事に千秋楽を終えた公演の苦労話、面白エピソードを笑いをこらえるように話すパートナーは、なんだか話を聞いてほしい学校帰りのはしゃぐこどものようで絆されてしまう。寝そべる身体からは大きな尻尾がぶんぶん振り回されているような気もするから、飼い主に構ってほしい大型犬のようでもあるかもしれない。
「でもこんなに酔いが回ったのは家の門を入ってからだぜ?」
ブランケットに包まれた新一の手を取り、快斗が甲に口づけをする。隙あらばスキンシップをしてくるのは、この男が酔っぱらっている証拠だ。
「それにベッドで眠る俺の王子様を見ちまったら、愛しさでもっと酔ってきたし」
元々気障な性格なのに、年々酔うと歯の浮くような言葉を平気で言ってくるから質が悪い。
「話聞いてやるから、まずは着替えろ」
「え~、じゃあ、新一が脱がせてよ」
ため息をつきつつ、スーツ姿のままの快斗にそう言うと、どうやら今日の酔っ払いはいい歳をした大人のくせに甘えん坊でもあるらしい。いや、新一のパートナーは比較的いつも甘えてくるような気がするので、この部分は訂正するべきだろうか。
「……ったく」
普段であればとことん無視を決め込む新一ではあるけれど、大きな仕事をきっちりとやり遂げた夫を労う気持ちがないわけではない。
先ほどの緊張ときめきを返せとは言いたいけれど、本当に返されてもまた新一の心臓が大変なことになるのは目に見えているし、先ほどまでの妙な雰囲気はどこか天の果てまで飛んでいってしまった。
ほんの少しだけ期待したと言えば嘘になるけれど、今日は着替えさせてこのまま寝かせるのが一番だろう。身体を起こしてベッドから立ち上がれば、当の本人には盛大に驚かれたから解せない。
「おら、脱げ」
クローゼットから部屋着を取り出し、快斗のそばに放り投げた。気が向いたとはいえ、こういう世話焼きは普段快斗のほうが率先して新一にするから、どんな顔をしていいのか分からない。滅多にしないことをした気恥ずかしさを隠すため、態度が少しばかり横柄になってしまった。そんな新一にきゃっ! と女性の声色を使って快斗がふざけ出すから、その身体を片足でげしげしと蹴り上げて急かした。こちらの気も知らないで、と酔っ払い相手にまた少し腹が立つ。
「新一がこういうことしてくれるの珍しくない?」
いたい! いたい! と声を上げながらも嬉しそうに身体を起こした快斗のシャツに手を伸ばし、新一はこれ以上揶揄われたくないとボタンを外していく。
「……まぁ、大きな仕事を頑張ったパートナー様へのご褒美はやらなきゃな」
そう口にした後でハッとする。頬を染めて快斗の顔を見れば、嬉しそうではあるけれどニヤニヤと茶化す気満々といった表情で。
「こっち見んな」
「むり、新一がそんなかわいい顔してんのに見ないわけないだろ」
思わず口が滑った。どうしてこちらの口が緩くなるのか、これではどちらが酔っ払いか分からないではないか。
「なぁ、今日の俺かっこよかった?」
「……さあな」
「嬉しい」
「おい、何も言ってねぇぞ」
「新一の顔見りゃ分かるって」
きっとこの場に隣の女医や大阪の親友など第三者がいれば、バカップル(ふたりはすでに結婚しているけれど)のじゃれ合いもいい加減にしろとでも言われていただろう。
「新一がこんなに優しいなら、俺、毎日でも酔っ払おうかな」
「……ばっろ」
酔っぱらう前の大前提として仕事頑張ってねぇとダメに決まってんだろと返せば、それは今日の俺はとっても頑張ってたし、かっこよかったって言ってるようなもんだよ? と揶揄われる。また口が滑った。言ってろ、と照れ隠しに雑に返したが、いつものように快斗に翻弄され始めていて悔しい。
「ほら、ワイシャツ脱いでそっちに着替えろよ」
シャツのボタンを外し終わり、なんだかまた妙な雰囲気になりつつある状況を変えようとしたけれど、お礼の代わりなのか手を伸ばしてきた快斗に耳の縁をなぞられた。思わず身体がびくんと反応してしまったけれど、これは新一は悪くないはずだ。しかも快斗がまた新一の首筋を撫でたり、耳殻を弄り始めたりするからたまったもんじゃない。
「っ……、変なとこ触んな」
「耳触ってるだけじゃん」
くすくすと笑いながらの着替え妨害行為に文句を言えば、新一は敏感だから耳だけでも感じちゃうもんな? と楽しそうに宣ってくる。誰のせいだと恨めしく思うけれど、流石の新一も下手なことを言えばこの後がどうなってしまうのかはこれまでの経験値で容易に想像できる。それに先ほどからうっかり口が滑りすぎている。おい、数十秒前に"そういう雰囲気"がなくなったと言ったのは、どこのどいつだ。
(やべぇ……ちけぇ)
いつの間にか快斗の手が新一の腰に回っていて逃げられない。いや、拘束は緩いため逃げられると言えば逃げられるけれど、シャツのボタンを外した時に伝わってきたいつもより高い肌温や濃くなった甘くて妖艶な匂いに身体が反応して正直動けない。
なんとか誤魔化したくて、一切動こうとしない快斗からワイシャツとインナーを脱がせたけれど、上裸になった姿はドキドキしていた新一にはかえって逆効果だった。細身なのに、しなやかに鍛え上げられた胸筋や腹筋が目に毒だ。思わず、ごくんと喉が鳴る。
「か、かいとっ……ほら着ろって。風邪引ぃちまうぞ」
「いいよ、明日からしばらく休みだし」
良くない。新一の心臓が保たない。苦し紛れに快斗のそばに放ったTシャツを掴んで襟元を広げたけれど、快斗は一向に着るそぶりを見せない。それどころか新一の腰を引き寄せて、その薄い腹に顔を押し付け、上目遣いで見つめてくる。
「なぁ、しんいち」
やめろ、ばか。そんな甘い声で呼ぶな、と思わず顔をそらしてしまった。目が合ってしまえば、ゆらりと火がつき始めた青紫色に捕らわれてしまうと分かっていた。自分でも期待したくせに、いざ快斗にこうして迫られると落ち着かなくてそわそわする。
「頑張ったから俺にご褒美ちょうだい」
部屋着の裾を少しだけ捲られ、臍や薄い皮膚に快斗の熱い唇が触れた。新一の体温が一気に上がり、腹から甘い痺れが全身に駆け巡る。一体どこでこの男のスイッチが入ったのだろう。……こんなの、あまりにも卑怯だ。
「なぁ、こっち見て」
砂糖に蜂蜜をかけたような甘い甘い快斗からのお願い。優しく語りかけるように頬を撫でられた。それと同時に手首も掴まれ、快斗の掌の熱さに身体が身震いする。
頬に触れていた指先が輪郭を伝い、新一の唇に触れた。ゆっくりと差し込まれ、中で濡れた指先でふくりと震えた唇の上をなぞられた。色々と耐えられなくてようやく快斗を見下ろせば、案の定にどろりと欲情に濡れるベニトアイトにずくんと射抜かれる。
「……っ、一回だけ、……だからな」
新一から出た声は、思った以上にねちゃりと水分を含んだものだった。